●2005/11/08浜武レポート「医療改革〜多重受診を減らすには」

内閣改造が行われた。

目玉の一つとして、川崎二郎厚生労働大臣の抜擢があった。

十月末に示された厚労省が公表した医療制度改革試案は社労族の影響力が大であった。

そこで、間髪いれず、医療政策に縁遠く、谷垣派の代表代行を務めていて国会対策に実績のある川崎氏を起用する事で「首相による社労族議員への戦線布告(森派関係者)」を断行したのである。

ところで、今回の医療制度改革の焦点は「総額管理制度導入」の是非にある。要するにノルマを課す事だが、具体的には老人医療費に上限を定め、それをオーバーした場合、医療機関が補填するものである。

無論、社労族は大反対で、先の試案には全くなく、他方、老人医療費の自己負担を一割から二割にする事はしっかり盛り込まれていた。

さて、この断行人事が官僚主導による財務省と厚労省のコップの中の嵐にならないように、国民的議論に昇華するよう、一つの視点を提示したい。

医療費抑制の最大のキーワードの一つとして「多重受診」の問題を提示する。

これは病気がなかなか治らないから、あちこちの病院に転院していく事なのだが、このため、全く同じ診療が各病院でなされ、同じカルテができ、転院した数だけの医療費が加算されている問題である。

この問題は患者の問題として地方議会(老人医療保険等特別 会計は地方自治体が持っている)では片づけられようとしている。

しかし、病気を持った本人、家族としては「治らない病院なら仕方ない」選択であり、ころころ変わる患者を窓口自己負担拡大で戒めるのは筋違いである。

この解決策として、医師、病院の情報公開と適度な自由化を掲げたい。 これは医師側にとっても好都合である。というのはこれほど医療が高度分業化しているなかで、自分の専門外の患者が来院した際、正直「自分には」とは言い出せない環境がある。

銀行への返済や勤務医であれば契約の問題もあり、最低限の義務を果 たすため、過度とも言える検査や投薬を行っているのが現状である(自分の得意な症例であれば視診一本で行き、相当な検査費を浮かす事ができる)。

 

しかし、このことを実施する環境整備は医師の卵時代からのそれが必須であり時間がかかるのは避けられない。 今、医師になるためには大きなお金を積むか(私学で一人の医師を作り上げるのに8000万円が相場と言う)高い偏差値(全国偏差値70台)が必要とされる。このいずれかの難関を通 りすぎて来た若人達がさぞ優秀な医師になると思いきや「なかなか能力を発揮していない」のが現状である。それも難関を勝ち抜いた後者の方が多く(本当に研究もでき、メスが切れるのは一割も満たない)、私学の進学した卵の方が「注射の打ち方は上手」と言う程、親を見て育った分、技量 、資質に精進していると言う。

医師になるまで国費の厚遇を受けつづけ、それに応える自他認める成績を取ったもの達にとって、現実の医療(聴診器一本で極限まで患者を観察できる能力)はどうも別 もののようである(入学後、人生最初の挫折をし、相当へこみ、大学デビューで他の道に走るなどそれまでのように熱心に勉強しないもの、不安だらけの卵もいる。そして、一生涯保身に走る者も出てこよう)。

しかし、専門性を先鋭化し、どの医師にも何だかのプライドを持たせる事によって、患者とのミスマッチを減らせば「きもちいい仕事」ができる。

小泉首相は数値目標を示し、あとは市場経済の原理で医療改革を進める「小さな政府」哲学はここでも健在である。これには一定の評価をする。

しかしながら、医師がきもちよく仕事をし、国民の笑顔を育む土壌創りは政治の貴い使命である。

「多重診療」等、時には医師のプライドをもえぐる(財務官僚も高学歴の既得権を持つ同じむじなであり、人が避けたくなる赤裸々な議論が出来てこそ政治家である)本質をついた議論を行う事を切に願う。

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